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甲府地方裁判所 昭和36年(わ)20号 判決 1963年2月13日

判   決

金融業

浅川隆三

古物商

五味光治

右浅川隆三に対する虚偽公文書作成同行使被告事件及び右五味光治に対する公文書偽造同行使、虚偽公文書作成同行使被告事件について、当裁判所は検察官緒方重威出席のうえ併合して審理を遂げ、次のとおり判決する。

主文

被告人浅川隆三を懲役一年に、被告人五味光治を懲役一年二月に、処する。

被告人らにつきいずれも本裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予する。

訴訟費用中証人佐野英夫、同竹居茂樹、同原清、同藤田忍、同宮沢恒夫に支給した分は被告人浅川隆三の負担とし、鑑定人有馬成甫、同早崎淳に支給した分は被告人五味光治の負担とし、その余は被告人両名の連帯負担とする。

理由

一、被告人両名の経歴及び本件犯行に至る経緯

被告人浅川隆三は昭和二八年三月ころから金融を業とし、かねて骨とう品を愛好して銃砲蒐集の趣味を持ち、昭和三〇年四月には古物商の許可を受けていた者であり、被告人五味光治は昭和二四年八月ころから古物商を営んでいたが、山梨県内では刀剣類に関する有数の鑑定家であるところから、昭和二六年以後文化財保護委員会より山梨県下における銃砲刀剣類の登録審査委員(以下単に審査委員と称す)に任命され、その鑑定事務に従事し、この意味においては公務員たる資格をもつていた者である。

被告人浅川は昭和三一年ごろアメリカ人などが日本古来の火なわ式銃砲を高価に買取つていることを知り、その模造品を作つて輸出しようと思い立ち、同年春ごろからその設計をしたが、企図した模造品の製作が法律上問題になるやの疑を抱き、当時の県警察本部防犯課長花田忠治らに試作品を示して相談したところ、発射機能がなければ銃砲とはいえないとの回答を得たので、同年七月ごろからその材料を集めるなど準備を進め、昭和三三年春ごろ銃身は鋳物でその内腔は銃身の三分の一程度、火皿から銃身への火道穴なき骨とう的時代色を施こし真鋳板の切抜き模様をつけた一見真物の火なわ銃とみられるごときもの十数挺を完成したのであるが、一挺当りの単価が三、八〇〇円から四、〇〇〇円位となり、高価に過ぎることから輸出の目算がはずれるに至つたので、これを国内で販売しようと考えるようになり、その後も同種のものの製造を続けていたところ、たまたま同業者たる室井金造らより、国内で販売する場合には銃砲として不法所持の疑いをかけられる心配もあるから火なわ式銃砲として登録しておいたらよいとすすめられたこともあり、自分でも登録すれば美術品もしくは骨とう品として一応価値のある火なわ銃と見られるから売却するのに好都合であると考え、同業者でかねて刀剣の登録手続をして貰つたことのある被告人五味に相談してこれが登録を受けようと企てるに至つた。

二、罪となるべき事実

(二)、そこで被告人浅川は昭和三三年六月三〇日ごろ甲府市穴切町一六〇番地の被告人五味方へ赴き前記火なわ銃の模造品三挺を提示しこれが登録のできるような鑑定およびその他登録の諸手続をとることを依頼したところ、被告人五味は右火なわ銃は被告人浅川の作製にかかる前記のごとき模造品であることを十分認識しながら後記のとおり山梨県教育委員会(以下単に教育委員会と称す)においては銃砲刀剣類の登録手続が簡略化されていたため虚偽鑑定も容易であり、かつ登録すれば被告人浅川の右火なわ銃の売却が容易になると考えてこれに応じ、ここに被告人両名は共謀のうえ、そのころ被告人五味の居宅で行使の目的で被告人五味においてかねて教育委員会より交付を受けていた登録原票用紙三枚の所定欄のうち、各種別欄に「火なわ式銃砲」と、同時代及び作者欄に「安政(江戸)、」ただし一枚には「慶応(江戸)」と虚偽の内容をその他所定欄に必要事項を記入しそれぞれの「相当登録審査委員の氏名及び印」欄に「五味光治」とペンで自署し、その名下に「五味」と刻した小判型印を押捺し、もつて担当審査委員たる被告人五味の職務に関し、右記載が鑑定結果と一致する旨の内容虚偽の確認文書三通を順次作成し、同年七月二日ころ同市橘町一八番地教育委員会事務局において情を知らない同委員会係員(以下単に係員と称す)に対し右書類を一括提出して行使し、

(二)、昭和三四年一〇月一七日ごろ前項同様被告人両名は共謀のうえ、被告人五味方居宅において右同様の火なわ銃模造品一六挺に関し行使の目的で被告人五味において前同登録原票用紙一六枚の各種別欄に「火なわ式銃砲」と、同時代及び作者欄に「江戸」とそれぞれ虚偽の内容を、その他所定欄に必要事項を記入し、同月二六日ころ前記教育委員会事務局において情を知らない係員をしてそれぞれの「担当登録審査委員の氏名及び印」欄にかねて預けておいた「五味光治」の記名印及び「五味」と刻した小判型印を押捺させ、もつて担当審査委員たる被告人五味の職務に関し、前同旨の内容虚偽の確認文書一六通を順次作成し、即時同所において情を知らない係員に対し右書類を一括提出してこれを行使し、

(三)、被告人五味は

1、昭和三五年五月一九日ごろ同被告人方居宅において同業者である赤尾保則から前記同種の火なわ銃の模造品二挺につき前同趣旨の登録手続方を依頼され、右は被告人浅川の作製にかかる模造品であることを十分認識しながらこれを了承し、ここに右赤尾と共謀のうえ、そのころ同所において、行使の目的をもつて前同登録原票用紙二枚の各種別欄に「火なわ式銃砲」と、同時代及び作者欄に「江戸」とそれぞれ虚偽の内容を、その他所定欄に必要事項を記入し、同日ごろ前記教育委員会事務局において情を知らない係員をして、それぞれの「担当登録審査委員の氏名及び印」欄に右同「五味光治」の記名及び「五味」と刻した小判型印を押捺させ、もつて担当審査委員たる被告人五味の職務に関し、前同旨の内容虚偽の確認文書二通を順次作成し、即日同所において情を知らない係員に対し右書類を一括提出して行使し、

2、同月二七日ごろ前記被告人五味方居宅において右赤尾が持参した前同種の火なわ銃の模造品五挺につき前同様同人と共謀のうえ、行使の目的をもつて前同登録原票用紙五枚の各種別欄に「火なわ式銃砲」と、同時代及び作者欄に「江戸」とそれぞれ虚偽の内容を、その他所定欄に必要事項を記入し、同日頃前記教育委員会事務局において情を知らない係員をしてそれぞれの「担当登録審査委員の氏名及び印」欄に「五味光治」の記名及び「五味」と刻した小判型印を押捺させ、もつて担当審査委員たる被告人五味の職務に関し前同旨の内容虚偽の確認文書五通を順次作成し、即日同所において情を知らない係員に対し右書類を一括提出して行使し、

3、同年六月二九日ごろ前記赤尾が近藤こと室井金造とあいはかり右赤尾所有の前同種の火なわ銃の模造品四挺につき近藤金造なる名義で不正に登録を受けようとして右赤尾において被告人五味に前同様の依頼をし、同被告人はこれを了承し、ここに右両名と共謀のうえ、そのころ被告人五味において同被告人居宅で右模造品四挺につき行使の目的をもつて前同登録原票紙四枚の各種別欄に「火なわ式銃砲」と、同時代及び作者欄に「江戸」とそれぞれ虚偽の内容を、その他所定欄に必要事項を記入したうえ、それぞれの「担当登録審査委員及び印」欄に五味光治とペンで自署し、その名下に「五味」と刻した小判型印を押捺し、もつて担当審査委員たる被告人の職務に関し、前同旨の内容虚偽の確認文書四通を順次作成し、即日前記教育委員会事務局において情を知らない係員に対し右書類を一括提出して行使し、

(四)、被告人五味は同年七月一八日ころ前記同被告人方において自分が入手した前記同種の火なわ銃の模造品二挺を自己名義で登録しようとし、行使の目的をもつて前同登録原票用紙二枚の各種別欄に「火なわ式銃砲」と、各時代及び作者欄に「江戸」と虚偽の内容を、その他所定欄に必要事項を記入し、同月一九日ごろ前記教育委員会事務局において情を知らない係員をしてそれぞれの「担当登録審査委員の氏名及び印」欄に係員に預けてあつた「堀田武則」「津久井閭」の記名印及び「堀田」「津久井」と刻した小判型印をほしいままに押捺させ、もつて登録審査委員堀田武則及び同津久井閭作成名義の前同旨の内容虚偽の確認文書二通を順次作成偽造し、即日同所において情を知らない係員に対し右書類を一括提出して行使し、

たものである。

三、証拠の標目<省略>

四、法令の適用

法律に照すに、被告人浅川の判示二の(一)、(二)の各所為および被告人五味の判示二の(一)、(二)、(三)の1、2、3の各所為中虚偽公文書作成の点は刑法第一五六条第一五五条第一項第六〇条(被告人浅川についてはなお第六五条第一項を適用)に、同行使の点は同法第一五八条第一項一五六条第一五五条第一項第六〇条に、被告人五味の判示二の(四)の所為中公文書偽造の点は同法第一五五条第一項に、同行使の点は同法第一五八条第一項第一五五条第一項に各該当するところ、判示各虚偽公文書作成と同行使との間、および判示各公文書偽造と同行使との間にはそれぞれ手段結果の関係があり、かつ判示各一括行使の点は一個の行為が教個の罪名に触れる場合であるから同法第五四条第一項前段第一〇条に従い、いずれも犯情の重いと認められる行使の罪の刑に従い、以上は各同法第四五条前段の併合罪であるから、同法第四七条第一〇条に従い、被告人浅川については犯情の重い判示の(二)虚偽公文書行使の罪の刑に、被告人五味については(四)犯情最も重い判示の偽造公文書行使の罪の刑に、各法定の加重をした刑期の範囲内において被告人五味を懲役一年二月に、被告人浅川を懲役一年に処し、諸般の情状を考慮して被告人両名につき右刑の執行を猶予するのを相当と認め、同法第二五条第一項を適用して本裁判確定の日からいずれも二年間、右刑の執行を猶予すべく、訴訟費用については刑事訴訟法第一八一条第一項本文第一八二条により主文掲記の通り被告人らにこれを負担させるものとする。

五、本位的訴因を排斥し予備的訴因を認めた事例

(一)、本件公訴事実は別紙の通りであるところ、そのうち第一の(一)、(二)、第三の(一)、(二)、第四事実の各前段の虚偽公文書作成(いわゆる無形偽造)同行使および第二事実の前段の公文書偽造(いわゆる有形偽造同行使)につき当裁判所は本位的訴因としての公文書たる鑑定結果の報告文書の無形偽造ないし有形偽造であるとの検察官の主張を排斥し、予備的訴因としての登録原票の記載内容が鑑定結果と一致する旨の確認文書の無形偽造、ないし有形偽造であるとの主張を認めたので次にその理由を説明する。

(二)、まず山梨県教育委員会における銃砲刀剣類の登録手続の実情をみるに、その当初にあつては正規の登録手続として銃砲刀剣類登録規則(現行規則は昭和三三年三月一〇日文化財保護委員会規則第一号)の趣旨に則り、登録申請者が登録申請書を県教育委員会に提出すると、教育委員会ではこれを受理し、鑑定を行う日時及び場所を申請者に通知する。そして申請者は通知された日時及び場所に申請にかかる火なわ式銃砲または刀剣類を持参して鑑定を求めることになるが、その場所には教育委員会の係員(以下単に係員と称す)が立会い、二名以上の登録審査委員(以下単に審査委員と称す)から口頭で鑑定結果の報告を受け、これを基にして係員が所要事項を登録原票用紙に記入したうえ、担当登録審査委員に示し、同委員二名が右原票用紙所定の担当登録審査委員氏名押印欄に氏名を記入して押印し、係員においてこれに県教育委員会社会教育課長の決裁を経て登録原票を作成し、登録証の発行をしていた。

ところが係員が右所要事項を記載するにおいては、専門語等に誤字があるため、これを審査委員に依頼し当該委員において直接原票用紙に記載することになり、さらに当時教育委員会所属の審査委員は被告人五味その他津久井閭、堀田武則の三名であつたが、事実上そのうち一人が鑑定すれば同人のほか残り二名中一名が鑑定することなく右氏名印欄に記名押印する扱いとなり、しかも、審査委員等は、あらかじめ記名用の印判と認印を係員に預けておき、係員においてこれにより右氏名押印を整え、ついには右鑑定をしない一名の審査委員は係員が適当に選ぶという取扱をするようになり、次いで昭和三〇年ごろからは登録事務に関する予算不足もあり審査や登録申請者の便宜を計る趣旨で、審査委員の自宅鑑定を認めることとなつた。すなわち、登録申請者は直接審査委員の自宅に目的物を持参してその鑑定を求め、これにより同委員は鑑定し、係員よりあらかじめ配付を受けている登録申請、登録原票の各用紙にそれぞれ所要事項を記入して係員へ提出し、係員においては右提出にかかる原票用紙に前記の通り、当該審査委員と適当に選んだ他の一名の氏名押印を整え決裁を得て、所定の手続をとり、これを銃砲刀剣類等の登録原票にし、さらに審査委員が登録申請者であるときは、申請者自らが鑑定して前記のごとく原票用紙に事項を記載して提出すれば、係員において、全く鑑定を求めることなくしてこれに他の審査委員二名の記名押印をして原票を作成するという簡略かつ便宜な取扱をしており、銃砲刀剣類の登録手続として余りに杜撰で遺憾とするところではあるが、これが山梨教育委員会における取扱の実情であつたことは、前掲証掲により明かなところである。また右公訴事実の各文書が右便宜的取扱の下に作成されたことも明らかである。

かかる事実からすれば、審査委員がいわゆる自宅鑑定の上原票用紙に所要事項を記入するのは、いわば係員の手伝的役割を果すにすぎないものというべく、そしてこれを所定欄に記名押印せずして、登録申請書類等と共に係員に提出する場合は、係員をしてこれにあらかじめ預けてある記名用印判と認印を押して法規上の要求を充足させる意思によるものというべく、自ら記名押印した場合もこれと同趣旨に出たものにほかならないというべきで、いずれの場合にあつても鑑定結果を報告する文書として記名押印する意思によるものというべきではなく、もちろん右提出事実自体より、係員は審査委員において原票用紙に記載の鑑定をしたものであることをうかがい知るであろうが、これをもつて鑑定結果の報告文書ということはできない。(特に記名押印なき場合は刑法上の文書ということはできない。)

そこで担当登録審査委員が登録原票の所定欄に記名押印するのはいかなる意義においてなされるものであるか、法令の明文には明記していないが、銃砲刀剣類等所持取締法第一四条第三項に登録は登録審査委員の鑑定に基いてしなくてはならない。と規定している趣旨からみて、原票に記載された内容が鑑定結果と一致するものであることを確認する意義においてなされたものと解するのが相当である。従つて、右原票のうち審査委員の記名押印により成立する部分(種類、時代、銘文、その他所定事項)の文書は、右確認文書の性質を有するものというべきである。

以上説明のごとき理由により前記公訴事実については、鑑定結果の報告文書としての本位的訴因を排斥し、原票記載内容が鑑定結果と一致する旨の確認文書であるとしての予備的訴因を認めた次第である。

六、一部無罪の判断

(一)、前記第一の(一)、(二)、第二、第三の(一)、(二)、第四の各後段の公訴事実は要するに被告人等は共謀または単独で前判示内容虚偽の公文書または偽造公文書を使用し、情を知らない山梨県教育委員会係員をして、同委員会名義の内容虚偽の公文書たる登録原票を作成させ、これを同委員会事務局に備付けさせて行使したものである、というのであつて、この事実は前掲証拠により認められるところで、いわゆる公文書の無形偽造の間接正犯に該当する場合である。

(二)、ところで刑法第一五六条の公文書無形偽造の罪は当該公文書の作成権限を有する公務員を主体とする身分犯であり、かつ刑法は同条のほかに第一五七条の特別規定を置き、右無形偽造中作成権限なき者による間接正犯にあたる場合を制限的に定め、これを同法第一五六条に比し著しく軽く罰している点からみると、同法第一五七条の場合のほかは同法第一五六条の無形偽造罪の間接正犯を処罰しない趣旨と解すべきである。ただし、この点に関し最高裁昭和三二年一〇月四日第二小法廷判決(集第一一巻第一〇号二四六四頁)は作成権限者たる公務員を補佐して公文書を起案し情を知らない右上司を利用してこれを完成した場合のごときは、公文書の無形偽造罪の間接正犯が成立する旨判示するが、これを本件についてみると、被告人五味は登録審査員という公務員の身分を有する者ではあるけれども、右登録についての関係法規上および前掲各証拠からするも右公文書たる登録原票作成権限を有するものではなく、また同作成権限者を補佐して公文書を起案する地位にあつたものでもないことが明らかであり、被告人浅川は何等公務員たる身分を有しないことも明瞭である。

してみれば、本件公訴にかかる被告人らに対する前記間接正犯としての各公文書無形偽造の所為は罪とならないものというべきである。従つて前記各登録原票は虚偽の公文書とはいえないからその行使も同法第一五八条一項、第一五六条、第一五五条一項に該当する罪にあたるとはいえず、右はすべて無罪である。しかしこれらは各判示の罪とそれぞれ牽連犯として起訴したものと認められるので、この点につき特に主文において無罪の言渡をしない。

七、弁護人の主張に対する判断

(一)、被告人五味の弁護人は、銃砲刀剣類等所持取締法にいわゆる銃砲中にはそのままでは弾丸発射の機能がなくとも通常の修理加工によつて弾丸発射の機能を有するに至るものをも含むのであつて、本件火なわ銃の模造品と称するものも容易に銃身および火道を貫通させることができ発射機能を有するにいたるものであるから右取締法にいわゆる銃砲といいうべく、これを申請登録することは違法ではない旨主張する。

(二)、たしかに右取締法にいわゆる銃砲の中には一時弾丸発射の機能に障碍があつても通常の手入または修理を施せば右機能を持ちうる銃砲を含むものと解するのを相当とする。そして、当裁判所の検証調書と鑑定人早崎淳の鑑定書によれば、本件火なわ銃の模造品もその銃身の内腔および火皿から銃身への火道穴を貫通させることはそれほど困難なわざとはいえず、これを貫通させれば発射機能を有するに至るものであることが認められるのであるが、本件模造品は元々前記のごとく銃身の内腔、火皿からの火道穴を欠く発射機能なきものを製作したもので、これが銃身の内腔、火皿からの火道穴を貫通させる作業は発射機能の障碍についての通常の手入または修理とはいえず、むしろ新規製作に準ずる改造というべきで、かかる状態にある本件の火なわ銃の模造品は未だ銃砲刀剣類等所持取締法にいわゆる銃砲には該当しないと解するを相当とする。

よつて弁護人の右主張はこれを採用しない。

昭和三八年二月一三日

甲府地方裁判所刑事部

裁判長裁判官降矢艮

裁判官西村康長

裁判官石原寛

公 訴 事 実

(昭和三六年二月二日付起訴の分)

被告人浅川隆三は、金融業を営むかたわら銃砲刀剣類に趣味を持ち、昭和三十一年春頃から古式火なわ式銃砲の模造品を製作していたものであり、被告人五味光治は、文化財保護委員会の任命にかかる登録審査委員として、火なわ式銃砲刀剣類の登録に関する同委員会の事務を行なう山梨県教育委員会へ登録申請のあつた火なわ式銃砲及び刀剣類の鑑定の職務に従事しているものであるが

第一、被告人浅川は自己の製作にかかる前記古式火なわ式銃砲の模造品の一部につき美術品若しくは骨とう品として価値のある火なわ式銃砲として不正に登録を受けようと企て、被告人五味にその旨をはかり、同被告人はこれに応じ、茲に被告人両名は共謀の上

(一) 被告人五味において、昭和三十三年で月三十日頃甲府市穴切町百六十番地同被告人方居宅において、被告人浅川の持参した火なわ式銃砲の模造品三挺を鑑定してこれが登録関係書類を作成するにあたり、行使の目的をもつて、登録原票用紙三枚の所定欄に夫々別表(一)のうち種別・時代及び作者の二つの欄につき別表(一)の欄のとおり虚偽の内容を記入した上「担当登録審査委員の氏名及び印」欄に「五味光治」とペンで自署し、その名下に「五味」と刻した丸印を押捺し、もつて担当登録審査委員たる被告人五味の職務に関し、山梨県教育委員会に提出すべき内容虚偽の鑑定結果の報告文書(これが報告文書でなければ内容虚偽の鑑定結果の確認文書として、予備的に主張)三通を順次作成し、同年七月二日頃同市橘町十八番地山梨県教育委員会事務局において、情を知らない同委員会係員に対し、右書類を被告人浅川名義の登録申請書に添え一括提出してこれを行使し、情を知らない同委員会係員をして右虚偽の報告文書等にもとづき登録原票作成の決裁手続を完了した上同月十一日山梨県教育委員会作成名義の、別表(一)備考欄記載の登録番号にかかる内容虚偽の登録原票三通を順次作成せしめて同日同委員会に備付けさせ、もつてこれを行使し、

(二) 被告人五味において、昭和三十四年十月十七日頃、前記同被告人方居宅において、被告人浅川の持参した火なわ式銃砲の模造品十六挺を鑑定してこれが登録関係書類を作成するにあたり、行使の目的をもつて、登録原票用紙十六枚に別表(二)のうち種別時代及び作者の二つの欄につき別表(二)の欄のとおり虚偽の内容を記入し、同月二十六日頃前期山梨県教育委員会事務局において、「担当登録審査委員の氏名及び印」欄に「五味光治」の記名印及び「五味」と刻した小判型印を押捺し、もつて担当登録審査委員たる被告人五味の職務に関し、山梨県教育委員会に提出すべき内容虚偽の鑑定結果の報告文書(前同予備的に主張)十六通を順次作成し、即時同所において、情を知らない同委員会係員に対し、右書類を被告人浅川名義の登録申請書に添え一括提出してこれを行使し、情を知らない同委員会係員をして右虚偽の報告文書等にもとづき登録原票作成の決裁手続を完了した上同月二十九日山梨県教育委員会作成名義の、別表(二)備考欄記載の登録番号にかかる内容虚偽の登録原票十六通を順次作成せしめて、同日同委員会に備付けさせ、もつてこれを行使し、

第二、被告人五味は単独にて、昭和三十五年七月十八日頃、同被告人方において自己が入手した火なわ式銃砲の模造品二挺を自己名義で登録するため関係書類を作成するにあたり、行使の目的をもつて、登録原票用紙二枚に別表(三)のうち種別・時代及び作者の二つの欄につき別表(三)の欄のとおり虚偽の内容を記入し、同月十九日、前記山梨県教育委員会事務局において、「担当登録審査委員の氏名及び印」欄に「堀田武則」・「津久井閭」の記名印及び「堀田」・「津久井」と刻した小判型印を擅に押捺し、もつて登録審査委員堀田武則又び同津久井閭作成名義の、山梨県教育委員会に提出すべき鑑定結果の報告文書(前同予備的に主張)二通を順次作成偽造し、即日、同所において情を知らない同委員会係員に対し、被告人五味名義の登録申請書に添え一括提出してこれを行使し、情を知らない同委員会係員をして右偽造の報告文書にもとづき登録原票作成の決裁手続を完了した上、同月二十日山梨県教育委員会作成名義の別表(三)備考欄記載の登録番号にかかる内容虚偽の登録原票二通を順次作成せしめて同日同委員会に備付けさせ、もつてこれを行使し、

(昭和三六年二月二〇日起訴の分)

第三、被告人五味は、美術類古物商を営む赤尾保則が、その入手した古式火なわ式銃砲の模造品を美術品若しくは骨とう品として価値のある火なわ式銃砲として不正に登録を受けようと企てているのを知り同人と共謀の上

(一) 被告人五味において、昭和三十五年五月十九日頃、甲府市穴切町百六十番地同被告人方居宅において、右赤尾の持参した火なわ式銃砲の模造品二挺を鑑定してこれが登録関係書類を作成するにあたり、行使の目的をもつて、登録原票用紙二枚の所定欄に夫々別表(四)のうち種別・時代及び作者の欄につき別表(四)の欄のとおり虚偽の内容を記入し、同日頃、同市橘町十八番地山梨県教育委員会事務局において、「担当登録審査委員の氏名及び印」欄に「五味光治」の記名印及び「五味」と刻した小判型印を押捺し、もつて担当登録審査委員たる被告人の職務に関し、山梨県教育委員会に提出すべき内容虚偽の鑑定結果の報告文書(前同予備的に主張)二通を順次作成し、即時同所において、情を知らない同委員会係員に対し、右書類を赤尾名義の登録申請書に添え一括提出して行使し、更に行使の目的をもつて、情を知らない同委員会係員をして右虚偽の報告文書等にもとづき登録原票作成の決裁手続を完了した上同月二十四日山梨県教育委員会作成名義の別表五備考欄記載の登録番号にかかる内容虚偽の登録原票二通を順次作成せしめて同日同委員会に備付けさせ、もつてこれを行使し

(二) 被告人五味において、同月二十七日頃前記同被告人方居宅において、右赤尾の持参した火なわ式銃砲の模造品五挺を鑑定してこれが登録関係書類を作成するにあたり、行使の目的をもつて、登録原票用紙五枚に別表(五)のうち種別・時代及び作者の欄につき別表(五)の欄のとおり虚偽の内容を記入し、同日頃、前記山梨県教育委員会事務局において、「担当登録審査委員の氏名及び印」欄に「五味光治」の記名印及び「五味」と刻した小判型印を押捺し、もつて担当登録審査委員たる被告人五味の職務に関し、山梨県教育委員会に提出すべき内容虚偽の鑑定結果の報告文書(前同予備的主張)五通を順次作成し、即日同所において、情を知らない同委員会係員に対し、右書類を前記赤尾名義の登録申請書に添え一括提出して行使し、更に行使の目的をもつて情を知らない同委員会係員をして右虚偽の報告文書等にもとづき登録原票作成の決裁手続を完了した上同年六月二日山梨県教育委員会作成名義の別表(五)備考欄記載の登録番号にかかる内容虚偽の登録原票五通を順次作成せしめて同日同委員会に備付けさせ、もつてこれを行使し

第四、被告人五味は、前記赤尾が近藤こと室井金造とあいはかり近藤名義で火なわ式銃砲の模造品を美術品若しくは骨とう品として価値のある火なわ式銃砲として不正に登録を受けようとしているのを知り両名と共謀の上、被告人五味において、昭和三十五年六月二十九日頃、同被告人方居宅において、右赤尾の持参した火なわ式銃砲の模造品四挺を鑑定してこれが登録関係書類を作成するにあたり、行使の目的をもつて、登録原票用紙四枚の所定欄に夫々別表(六)のうち種別・時代及び作者の欄につき別表(六)の欄のとおり虚偽の内容を記入した上「担当登録審査委員の氏名及び印」欄に「五味光治」とペンで自署し、その名下に「五味」と刻した小判型印を押捺し、もつて担当登録審査委員たる被告人五味の職務に関し、山梨県教育委員会に提出すべき内容虚偽の鑑定結果の報告文書(前同予備的に主張)四通を順次作成し、同日頃、前記山梨県教育委員会事務局において、情を知らない同委員会係員に対し、右書類を前記近藤名義の登録申請書に添え一括提出して行使し、更に行使の目的をもつて、情を知らない同委員会係員をして右虚偽の報告文書等にもとづき登録原票作成の決裁手続を完了した上同年七月五日山梨県教育委員会作成名義の別表(六)備考欄記載の登録番号にかかる内容虚偽の登録原票四通を順次作成せしめて、同日同委員会に備付けさせ、もつてこれを行使し

たものである。

別表(一)乃至(六)<省略>

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